今、世界中でベジタリアンやヴィーガンなどの菜食人口が増えています。「ヴィーガン」と聞いて、宗教、あるいはファッションのような流行だと捉えている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、我々人間が長年にわたり自らつくりだした健康被害や環境破壊、動物虐待など、深刻な問題が背景にあるのをご存じでしょうか。
菜食人口が急増している国では、どこの飲食店でも当たり前のようにヴィーガン対応メニューやヴィーガンオプションがありますが、日本ではようやく「ヴィーガン」という言葉が広まりつつあるといった程度。ヴィーガン専門レストランやヴィーガンカフェはまだまだ少なく、世界にくらべて認知と対応の遅れが課題です。
2022年もあとわずか。今どのくらいの人々がヴィーガン生活を送っているのでしょう。新しい年を迎える前に、なぜ今ヴィーガンなのか、世界と日本のヴィーガン人口やヴィーガン事情を確かめながら、「ヴィーガンの現在地」を把握しておきましょう。
【目次】
ヴィーガンとは
野菜や果物、豆類などの植物性食品を中心に食べる人たち、いわゆる菜食主義者をベジタリアンと呼びます。さらに動物性食品を一切とらないのが「ヴィーガン」。ヴィーガンはベジタリアンの一種ではありますが、ベースには動物を苦しませないために動物由来のものを避けるという思想があります。厳格なヴィーガンは、肉や魚、乳製品や卵などの動物性食品を避けるだけでなく、動物由来の加工製品(皮製品・シルク・ウールなど)も身につけません。
ここでは、主に「ダイエタリーヴィーガン」とも呼ばれる食のスタイルとしてのヴィーガンを中心に語りますが、基本的にヴィーガンは、食だけに留まらないという点を理解しておいてくださいね。
「ヴィーガン」についてのコラムはこちら⏬
ヴィーガンになる理由
ヴィーガンも含めた菜食人口が拡大している背景には、以下のような理由があります。
①健康志向
②アニマルウェルフェア(動物福祉)、クルエルティフリー(動物実験のような残酷な行為を行わない)
③畜産における温室効果ガスの排出、地球温暖化問題
④メディアの情報や有名人の影響
⑤コロナ(個人の食生活や生き方の見つめなおし)
肉や乳製品など「動物性食品」の過剰摂取により、生活習慣病やガンになる可能性があることは、すでに多くの研究結果とともに人々が認識している事実ですよね。WHO(世界保健機関)の発表やSNSでも情報がさかんに取り上げられたことで、もともと食の制限がある方だけでなく、特にヴィーガンに興味を持たなかった層も、食の意識が変わりつつあります。
ヴィーガンはグルテンフリー(小麦製品を避ける)との親和性もあり、積極的にヴィーガンを選択する人も増えています。
畜産における環境負荷の問題については、英国政府が主要先進国に先駆けて2050年までに温室効果ガスの純排出量をゼロにすると発表。また、世界人口の増加や食糧危機など、差し迫った課題に対しての意識の高まりが、ヴィーガンを含む菜食人口の増加を後押しする大きな要因となっています。
長引くコロナ禍で、私達はこれまでの食生活や生き方について見つめなおすきっかけを得ました。誰もが幸せに暮らせる世界を、未来に向けてどう維持していくのか。限りある資源を後世にバトンタッチするには、持続可能なライフスタイルを定着させる必要があります。
人間のエゴや利益のために動物を搾取せず、環境をこれ以上汚染しなくても済むような新しい暮らし方、食においては「ヴィーガンを選択することが多くの問題解決に役立つ」ことに、みんなが気づき始めたのです。
参照:大和総研/なぜ、ヴィーガン(ベジタリアンなのか)https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20210203_022067.pdf
ヴィーガンが食べていいもの、ダメなもの
ヴィーガンは完全菜食主義者といわれるように、植物性由来の原料からできた食品は食べてもOKとされています。代わりに、動物性由来の食品は一切NG。ヴィーガンを追及するならば、料理に使われる材料や調味料はもちろん、たとえばタネ(畑)から製品になるまでの過程においても、動物性のものが関与している場合は避けるべきでしょう。
しかし、加工された食品を見れば分かるとおり、全ての情報を消費者が正しく得るのは不可能です。「ヴィーガンとは完全菜食主義者だ」という世界の共通認識があるものの、国の法律や規律が同じ基準で定められているわけではありません。つまり、ヴィーガンは何を食べるか、何を食べてはいけないか、どこまで許容するかは、最終的には個人やコミュニティなどに委ねられます。
世界や日本のヴィーガン人口とヴィーガン事情
総務省の統計やNPO法人アニマルライツセンターが2014年に実施した調査、Vegewel及び運営会社フレンバシーの2019年の調査などを参考にすると、日本の人口約1億2,600万人のうち、ベジタリアン人口は5.0%。そのうちヴィーガン率が1.9%なので、ヴィーガン人口はざっと240万人ということになります。国全体から見ると、諸外国の割合と近い数値です(例:アメリカ合衆国ではヴィーガン率2.5%、オーストラリアではヴィーガン率2%)。
観光庁によると、国・地域ごとのベジタリアンの人口比率は、インド約28%、台湾約14%、ドイツ約10%、英国約5%、日本は約4%。中南米を含むアメリカ大陸では年平均約3.9%、欧州で約2.6%増加しており、若者ほど動物性食品を控える傾向が高いそう。
欧米の先進国でも、ヴィーガンやベジタリアンは特に若い世代に多く、アメリカでは菜食実践者の約半数が35歳未満。ドイツでは、全人口の約10%、首都ベルリンでは15%前後がベジタリアンもしくはヴィーガンと報告されています。
ヴィーガン発祥の地イギリスは、どうでしょう。2017年の時点で約54万人が菜食を実践。ポール・マッカートニーが提唱する「ミートフリー・マンデー」キャンペーンなどの影響もあり、菜食を意識的に取り入れるイギリス人は急増しているといいます。
Allied Market Research の調べでは、2018 年のヴィーガン食市場の規模を 142 億ドルと推計、さらに 2026 年には 314 億ドルにも拡大すると見込んでいます。菜食市場を狙った経済活動の活発化からみても、ものすごいスピードでヴィーガンやベジタリアン人口が増えていることがわかります。
※ヴィーガンおよびベジタリアン人口に関する調査においては、世界的にも履歴が少なく、国や地域、社会情勢や環境により諸条件が異なるため、あくまで参考データであるとお考え下さい。
参照:観光庁/飲食事業者等におけるベジタリアン・ヴィーガン対応ガイド/https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001335459.pdf
第2回日本のベジタリアン・ヴィーガン・フレキシタリアン人口調査 by Vegewel
Tokyo vegan/ビーガン人口が6倍に増加?ベジタリアンなどの世界菜食トレンド推移/https://note.com/grino/n/n5a6fd3a9d63a
アニマルライツセンター/日本と世界のヴィーガン率・ベジタリアン率https://www.hopeforanimals.org/vegan-vegetarian/432/
スポーツ選手や有名人も実践しているヴィーガン
世界のセレブ達がヴィーガンであることを次々に公表し、一般の人々にも大きなインパクトを与え続けています。過酷な体力づくりが必要なスポーツ界においても、テニスのノバク・ジョコビッチやビーナス・ウィリアムズが菜食アスリートとして結果を残していることは大きな驚きです。
ほかにも、アイルランドのラグビー選手アンソニー・ムラーリーは、2017年以降、ヴィーガン食だけで身長195センチ、体重114キロの体を維持しているそうです。NBAのブルックリン・ネッツでプレーするカイリー・アービングは、プラントベースの食生活はスタミナが増えると語っています。動物性タンパク質に頼る時代は、もはや過去のものかもしれません。
参照:英国におけるベジタリアン・ビーガン市場調査https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2019/37cf388c2950509f.html
Women’sHealth/あの有名人も!?40人のセレブたちがヴィーガンになることを選んだ理由https://www.womenshealthmag.com/jp/food/a40016418/vegan-celebritie1-20220524/
まとめ
海外からの観光客が復活の兆しをみせる日本、今後は飲食店や宿泊施設などでヴィーガン食対応が当たり前に求められるようになるはず。健康面だけでなく、動物愛護や環境問題の観点からも「ヴィーガンに挑戦してみたい!」と考える人が増えていくことでしょう。
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